サントリーのDX推進責任者が語る、巨大メーカーにおけるDXの真髄とは?
2022/11/07

サントリーのDX推進責任者が語る、巨大メーカーにおけるDXの真髄とは?

各企業のDXの取り組みについて知る本連載。

今回はサントリーホールディングスでDX推進を担う室元氏に、サントリーにおけるDXの取り組みについてお話をお伺いしました。

 

室元 隆志 様

 

サントリーホールディングス株式会社

執行役員・デジタル本部長

 

1988年サントリー入社以来、宣伝部、業務用営業などを経て、2000年よりデジタルマーケティング業務に従事。サントリーホームページの立上げ、基盤整備、ビジネス活用のR&D、広告ROIの効率化、EC、ブランドなどのデジタルマーケティングなどを手がける。2021年1月より現職。

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サントリーのDX推進の大きな兆し

ー2021年1月にデジタル本部が発足されてから約1年半が経ちました。

DX推進は「業務生産性の改善」という目的で行われている企業が多い中、貴社では「顧客体験の変革」という観点での取り組みを重視されている印象です。この1年半を振り返ってみていかがでしたでしょうか?

 

私は22年ほどずっとデジタル領域に携わっていますので、いわゆるレガシー企業がデジタルで変革していくことの難しさはよくわかっていたつもりでした。そして、当初計画していたいわゆる新規サービスのようなものは、やはりなかなか進みにくいなというのが今の感想です。

 

しかし、一年半をかけて、ようやくいくつか兆しとなる取り組みが開始されています。

例えば、飲料の事業でいうと「SUNTORY+(サントリープラス)」。元々は法人のお客様に扱っていただく1つの手段として自販機の営業をしていましたが、お客様の経営課題である「健康経営」に着目しました。健康経営はなかなか続かないとか、あるいはその企業の経営者や担当者が色々なことをやっても、うまく進んでいるのかよくわからないという課題がありました。人はなかなか健康行動を続けられなかったりするので、それをアプリで解消するという目的で、アプリと自販機を連動させるサービス設計にしました。今はそこから生み出されるデータを我々が抽出し、リアルタイムにその企業の従業員の方々がどういう健康行動をとっているのか、続けているのかということを、人事担当者に向けて、SaaSのようなサービスに仕上げて提供しています。このサービスで一皮剥けた感覚がありましたね。今までの販促的なやり方から、もう一歩踏み込んだ提案までおこなっています。

我々としては、そんなDXをやっていきたいと思っています。

 

ー正にものづくりからサービス提供まで踏み込んだ提案をデジタルを起点に実施されている事例ですね。一般消費者向けの取り組みで兆しを感じられている事例はございますでしょうか?

 

個人向けでいうと、缶ワイン「ONE WINE(ワン ワイン)」の事例もあります。

我々の持つ顧客データ上、ワインの家飲み市場は、40〜60代がメインでした。20~30代は、家でワインを飲まないということです。ただし、例えば20~30代の若い女性が、バルなど外食の時はものすごくワインを飲んでいるじゃないですか。では、なぜ家では飲まないのか、と理由を掘り下げていくと、実は「飲みたいけど、飲めない」というお客様の課題・インサイトがあったのです。

1つ目はワインボトルのサイズの問題。大きくて飲みきれませんという話ですね。これは誰でも考えつきますが、もう少し深く掘り下げると、ワインはラベルがすごく難しいのです。何が書いてあるかよくわからないのです。2つ目はそれがスーパーの棚にずらっと並んでいて、どれを選べばいいのかわからないという問題もあります。本当は家で気軽に楽しみたいけど、楽しめないという課題が潜んでいて、これを解決するという目的で、プロジェクトを始めました。

最終的には、飲み切りサイズで、あまり難しいことを考えずに選べる缶ワインという形になりました。ただ、お客様は気分に合わせて種類を選びたいし、やっぱり本格的なワインは飲みたい。チープなワインに気分が満たされないということもあるので、中身であるワインの品質やお客様のこだわる「ブドウの品種」を担保しました。

実際に商品化してみると、1缶500円という単価になってしまいました。これを販売するとなると、従来の我々のプロモーション手法ではうまくいかないのが目に見えていたのです。スーパーに1缶500円のワインが並んでいても中々手にとりませんよね。

そこで、まずは大手ECプラットフォームと、我々の持っている自社ECのみで販売し認知を獲得しました。

当然、お客様がどの商品を買い、リピートしてくれるのかなどのデータをもとに販売を加速することができ、結果的に大手スーパーのお取引先様から目にとめていただき、店舗での販売に至っています。

 

お客様に価値を届けたいけど既存のやり方ではうまくいかない、ということが目に見えていたので、いっそ売り方の発想を変えましょう、という提案をしました。これもデジタルトランスフォーメーションの一つかなと思います。デジタルの手段がなければ、店舗では並べられなかった商品だと思います。

サントリーインタビュー

DX推進に必要な人材要件とは?

 

ー人材の観点でもお伺いさせてください。この1年半、DXにおける様々なスキルやバックグラウンドをお持ちの方がジョインされていらっしゃるかと思います。改めて室元様が感じられる、サントリーのDXにおいて必要な人材要件とは、どのようなものでしょうか?

 

やはり人材の多様性は必要だと感じています。というのも、既存社員は今までのサントリーの考え方や、今までのマスマーケティング、マスプロダクトの考え方での成功体験が強いので、そういった視点のみではない人材が必要です。

従来の勝ちパターンだけでない方法を経験し、ビジネスの発想を変えていける人材、さらに、我々がすでに持っているリアルアセットを理解しながら、考え方をトランスフォーメーションしていけるデジタル人材が必要だと感じています。

 

具体的に、活躍されている方のタイプでいうと3種類あります。

1つ目は、サントリーのビジネスを熟知し、それを変革できるビジネスイノベーション人材。これはサントリーの既存社員がそうですが、今までのマスマーケティングのやり方を今度はデジタルも掛け合わせて発想できる人です。デジタル時代のビジネスイノベーション人材が必要だと思います。

2つ目は、その人材が生み出したものを、デジタルの手法でプランに落とし込んで実行し、それを実現化、グロースしていける人材。

3つ目はもう少し高度になるのですが、既存事業の考え方そのものをトランスフォーメーションしていける変革人材。

この3タイプの人材が今のサントリーには必要ですね。

 

また、これまで採用した方の中でとても活躍していると思う人材でいうと、「顧客体験」を深く理解している人です。やはりレガシー企業の中でデジタルを進めていこうとすると、デジタルの重要性がわからない相手にも、伝わるように説明しなければいけない側面があります。単純に技術力やスキルがあるだけではうまくいかないこともあります。

そのため、顧客体験を理解しつつ、デジタルを活用すると、こんな風に顧客体験やビジネスが変革できるのではないですか、と説明できる人は、ものすごく活躍していますね。

 

DX人材採用における既存社員とのシナジー・人材育成について

ーDX人材を外部から短期的に大規模で採用されることは、貴社の採用の歴史の中でも珍しいと感じています。外部からDX人材を採用することでシナジーが生まれたり、大きな可能性を感じられるなどの兆しはありますか?

 

健康食品事業のサントリーウエルネスでは、多くのDX人材が採用でき、今までのやり方とは大きく変わっています。そういった意味での刺激は、他事業にも波及していると聞いています。

私が見ている飲料や食品事業でも、今までのサントリーのやり方とは大きく異なる経験をされてきた方々が入ってきているので、ものの考え方や働き方などは、かなり刺激になっていると思います。外部から新たな知見が入ってくることもそうですし、経験入社者もサントリーならではの風土や、顧客価値を重視する考え方などから、また新たな取り組みが出てくるのかもしれない。デジタル本部内でも、良いシナジーが生まれる兆しを感じています。

 

DX人材の採用や育成に関して、課題視されている点や、課題解決に向けた取り組みがあれば教えてください。

 

採用に関しては一定うまく進んでいるのですが、サントリーのDX推進に対する世の中の認知がまだまだ薄い現状があります。

候補者の方から見ると、サントリーは飲料メーカーであるという認識が強くあり、サントリーとDXがうまく結び付いてないのです。DXというと、いわゆるデジタル専業の企業やスタートアップのほうが強いイメージを持たれることもあり、まだまだ世の中に伝わっていないと思っています。

そういう方々に、例えばSUNTORY+やONE WINEの話をすると、「リアルアセットを活かすのはこういうことなのか」と理解していただけます。

我々は物を売るだけでなく、社会課題を解決するために、サントリーの持つリアルアセットと顧客接点を強みにDXを推進している、という点をもっと伝えていく必要があると考えています。

 

育成に関する課題は、「ビジネスイノベーション人材」をどのように育てるか、ということですね。自分たちの事業を理解し、リアルアセットの活用について発想できる人材を育てることが、これからの経営課題だと思っていますし、経営陣の中でも優先度が高まってきています。

 

SUNTORY+の事例もそうですが、デジタルを使わないと絶対できないようなサービスですし、デジタルの発想がないとそもそも生まれていないので、それが社内でも徐々に理解され始めています。どのアセットをどう活用できるのか、という考えは既存のビジネスや顧客を理解できている人材が有利なので、いかにそういった人材を増やしていくかが今後の課題だと感じています。

サントリーインタビュー

応募を検討されている候補者へのメッセージ

 

ー最後に、サントリー様への応募を検討されているDX人材に向けてメッセージをお願いいたします。

 

100年以上続くレガシー企業が、今まさに変革しようとしているこのタイミングで、参画したいという方にぜひ来ていただきたいと思っています。

デジタル専業の企業やデジタル関連企業とは異なり、これまでのリアルアセットをいかにして価値に変換していくのか、というデジタル時代のイノベーションを起こせる貴重なタイミングです。日本市場でのビジネス戦略に加えて、日本発でグローバルに展開できるという面白さもあります。このトランスフォーメーションによって事業を成長させたいという方は、ぜひご応募いただきたいと思います。

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